その起源については不明な点が多いのが現実ですが1600年代にコンスタンチノープル(現在トルコのイスタンブール)で花言葉が付けられたのが最初とされています。
西欧諸国に紹介されるようになったのは18世紀に入ってからで、本格的に広がったのは19世紀、ヴィクトリア朝のイギリスです。少し遅れてフランスの貴族社会で草花を題材にしたポエム(詩)が流行し、手書きの詩作ノートが
貴族の間で回覧されていました。このノートを元に、1818年、シャルロット・ド・ラトゥール『花言葉』
(Le Langage
des Fleurs)という花言葉辞典が出版されました。
(右図)
ラトゥールは270を超す花言葉、大きく二つに分けました。
第1は、その植物の外形や香り・色・生態といった植物の性質・特徴を言葉で表現しようとする観察重視の姿勢。たとえばブラックベリーについて、自らの観察をもとに「人目を避けるように生え、ひとたび口に含むと苦さだけが残る」とまとめたうえで、花言葉を「嫉妬」と名付けるような具合です。
第2は、西欧社会で草花が積み重ねてきた文化史的伝統を、1つの単語に凝縮して形容しようとする文化史重視の姿勢です。例えば古代ギリシアの伝統を参照しながら月桂樹に「栄光」の花言葉をあてたり、聖書の記述をひいて「オリーヴの花言葉は平和」などです。
特に、ラトゥールは、花の中でもバラに重要な位置が与えています。バラは「花の中の花」と称されるほど西欧文化において重視されてきた花の1つで、伝承や神話がとりわけ豊富だからです。
西欧の伝統において赤いバラは勝ち誇る美と愛欲を象徴する一方で、日本における桜のように現世のうつろいやすさを象徴するとして様々な図像表現に登場しました。また病室に白いバラを持参することを忌避するといった、バラにまつわる俗信・慣行も少なくありません。こうした伝統の豊富さから、ラトゥールはほぼ
1章をバラの記述にさいて、色の違いのほか「バラの花束」「
1輪のみのバラ」といった飾り方の違いごとに様々な花言葉を考案しています。
こうしたラトゥールの命名スタイルは後につづく数多くの花言葉辞典の踏襲するところとなり、彼女の本自体も、フランス以外でたびたび版を重ねました。
社会の各層に庭園文化が浸透していたヴィクトリア朝のイギリスでもさまざまな花言葉辞典が出版され、中でも著名な絵本画家ケイト・グリーナウェイが著した挿絵入りの辞典は700を超える花言葉が一花ごとの挿絵とともに紹介され、大きな評判を呼び、花言葉という慣行の普及に大きく寄与したとされます。
欧米ではラトゥールやグリーナウェイの考えた花言葉を基本的な輪郭としつつ、現在でも新しい花言葉の考案が続けられています。
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花言葉を利用して草花を楽しむ習慣が日本に輸入されたのは、明治初期とされています。当初は輸入された花言葉をそのまま使っていましたが、その後、日本独自の花言葉も盛んに提案されるようになりました。
また園芸産業の広がりとともに、花言葉は花卉類の販売促進のためさまざまに活用が試みられています。日本独自の新品種が開発されたさいに開発者自身が花言葉を命名しているほか、
生産者が新しい花言葉を消費者から募集・命名したり、
販売会社が独自に命名するといったケースがあります。
・ピーター・コーツ(安部薫訳)『花の文化史』(八坂書房、1978)
・若桑みどり『薔薇のイコノロジー』青土社、2003
・谷口幸男「バラ(薔薇)
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神話・伝承・民族」(『世界大百科事典』平凡社)。
・ヴァネッサ・ディフェンバー(金原瑞人ほか訳)『花言葉をさがして』ポプラ社、2011
・樋口康夫『花ことば:起原と歴史を探る』(八坂書房、2004)
・春山行夫『花ことば:花の象徴とフォークロア 上』(平凡社〈平凡社ライブラリー〉、1996
・森山
倭文子「花言葉」(『世界大百科事典』平凡社、1988)
・倉石忠彦「花言葉」(『日本大百科全書』小学館、1997)
・wiki
■
すでに紹介した通り、花言葉の全てを網羅できませんが、代表的なものを以下に紹介します。
オリーブ |
平和 |
フクジュソウ |
悲しい思い出 |
ゲッケイジュ |
栄光 |
ヒナゲシ |
慰(なぐさ)め |
ユリ |
威厳 |
サクラ |
精神美 |
スイセン |
自己愛 |
ヤマザクラ |
純潔・淡泊など |
スミレ |
節度 |
ヤマブキ |
待ちわびる |
バラ |
愛情 |
etc., |
|
ヒナギク |
純真 |
|
|
スズラン |
戻ってきた幸福 |
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花言葉のそれぞれについて丁寧に紹介したサイトを以下に紹介します。
・花言葉辞典 アイウエオ順に画像付で説明しています。ココ
・誕生花365日 1年365日の誕生花を紹介しています。 ココ
・季節の花300 言葉の意味から逆引きできるようになっています。ココ など |